ビキニタウンの住人たちがごく自然に受け入れている「カタツムリ=猫」という図式には、アニメーション史的にもユニークな演出意図が隠されています。ゲイリーはウミカタツムリ(Sea snail)でありながら、四肢を持たない体で床を滑走し、喉を鳴らし、何より明瞭に「ミャオ(Meow)」と鳴きます。
この独創的な世界観を構築したのは、番組の生みの親であり、自身が元海洋生物学者でもあった故ステファン・ヒーレンバーグ(Stephen Hillenburg)氏です。ヒーレンバーグ氏は、陸上のペット文化や生態系をそのまま海底世界へユーモラスに反転・投影する手法を取り入れました。作中では以下のような見事な対比構造が成立しています。
・カタツムリ(ゲイリーなど):陸上の「猫」に相当(ミャオと鳴き、毛玉ならぬ粘液を吐く)
・線虫・ミミズ・貝:陸上の「犬」や「鳥」に相当(ワンワンと吠えたり、餌をついばむ)
・クラゲ:陸上の「蜂」や「鳥」に相当(群れで飛び、刺すと腫れ上がる)
つまり、ゲイリーの鳴き声は単なるナンセンスギャグではなく、徹底した「海中パロディ生態系」のルールに基づいた必然的なデザインなのです。
また、ゲイリーの原語版(英語)の声を演じているのは、なんと主人公スポンジ・ボブと同じ声優のトム・ケニー(Tom Kenny)氏です。ケニー氏はインタビューで「ゲイリーの鳴き声は、彼がどれだけ賢く、かつスポンジ・ボブをどう評価しているかを一言のニュアンスに凝縮させて演じている」と語っています。日本語吹き替え版においても、トム・ケニー氏の原音アーカイブが効果的に活かされつつ、エピソードによっては奥田啓人氏をはじめとする実力派声優陣が絶妙な息遣いを吹き込んでおり、日米双方で愛され続けるキャラクターの骨格を支えています。