パスタを茹でる際、多くの人が疑問を抱くのが「そもそもなぜ塩を入れるのか」という点です。かつて流布した「沸点を上げて早く茹で上げるため」という俗説は、現代の熱力学では明確に否定されています。水1リットルに10gの塩を加えても、沸点の上昇はわずか約0.17℃に過ぎず、調理時間には何の影響も及ぼしません。
真の理由は、「浸透圧による下味の付与」と「グルテンタンパク質の引き締め」にあります。
パスタ塩の量と黄金比は、水に対して「重量比1.0%(水1リットルに対して塩10g)」です。パスタは茹で上がる過程で自身の重量の約2〜2.2倍にまで水分を吸い込みます。このとき、茹で汁に適度な塩分が含まれていないと、麺の内部が無味なまま水分で膨張し、後からどれだけ濃いソースを絡めても味がぼやけてしまいます。さらに、塩化ナトリウムのイオン作用によって小麦粉内のグルテン網状構造が強固になり、表面の過度な煮崩れを防いで歯ごたえを保持する効果を発揮します。
そしてもう一つ、イタリア料理の成否を分けるのがパスタ茹で汁乳化の真相です。パスタの茹で汁には、麺から溶け出した微細なデンプン粒子が豊富に含まれています。オリーブオイルなどの油分と水分は本来混ざり合いませんが、このデンプンが天然の界面活性剤(乳化安定剤)として機能します。フライパンでソースと茹で汁を激しく揺すり合わせることで、油滴が微細化されてトロリとした濃厚なソースへと変化し、麺に均一に絡みつく仕上がりが完成します。