日本の名だたる巨大企業において、創業家による世襲は珍しくありません。しかし、柳井正氏は国内外のメディアに対し、一貫して「会社は創業家のものではない。一番優秀な人間が経営を担うべきだ」と公言し、息子たちを後継社長に指名しない方針を貫いてきました。
この徹底した世襲排除の背景には、ユニクロをグローバル企業として永続させるための冷徹な合理主義があります。柳井氏が恐れるのは、能力の客観的な証明がないまま血縁関係だけでトップに座り、激変する世界競争で判断を誤る「創業家リスク」です。かつて自らも父親から小郡商事を受け継ぎ、数多の失敗と改革を経験したからこそ、親の情実で経営権を譲る愚を誰よりも理解しています。
ただし、柳井氏の戦略は「息子を会社から完全に締め出す」ことではありませんでした。経営の実務を担うトップ(執行)と、株主の利益を守り経営陣を監督する立場(ガバナンス・取締役)を完全に切り分ける「所有と経営の分離」こそが、柳井氏が下した決断の真相です。