事件が発覚したのは、予約時間を過ぎても現れない次の顧客が不審に思い、ビルの管理会社に通報したことがきっかけだった。駆けつけた警察官が目にしたのは、施術用チェアの足元で息絶えていた被害者の姿である。争った形跡はごくわずか。抵抗する間もなく襲われた可能性が高い。
現場検証に入った科学捜査研究所(科捜研)の鑑識班は、室内の微細な痕跡を徹底的に採取した。ルミノール反応が示したのは、犯人が犯行後に洗面台で手を洗い、入念に自らの痕跡を消去しようとした形跡だ。しかし、完全犯罪など存在しない。被害者の爪の間にわずかに残されていた皮膚片から、未知のDNA型が検出された。科学の眼が、暗闇に隠れた実行犯の輪郭を捉え始めている。