閉店から時が経った今もなお、なぜこれほどまでに神保町店の名が語り継がれているのでしょうか。その理由は、妥協を許さない素材選びと、炭火の魔術とも呼ぶべき調理技術の高さにありました。
神田神保町といえば、カレー、ラーメン、天丼、洋食といった「ガッツリ系炭水化物」の激戦区です。その中で雷門き介が築き上げた独自のポジションは、「ワンランク上の地鶏を圧倒的なコストパフォーマンスで味わえる鶏料理居酒屋」というものでした。
その真骨頂が、ランチメニューの不動のツートップであった「比内地鶏の親子丼」と「きじ焼き重」です。親子丼に使用されていた比内地鶏は、適度な歯ごたえと噛むほどに溢れ出す脂の甘みが特徴。熟練の焼き手が炭火で軽く炙り、香ばしさをまとわせた鶏肉を、特製の出汁と濃厚なこだわり卵で絶妙な半熟加減に仕上げていました。一口頬張った瞬間に広がる炭の香りと、トロトロの黄身、出汁を吸ったご飯の一体感は、界隈のサラリーマンにとって午前中の激務を忘れさせる至福のひとときでした。
また、夜の部を支えた「焼き鳥」も一級品でした。希少部位を含む串打ちの丁寧さ、土佐備長炭の強火で一気に肉汁を閉じ込める焼きの技術、そして創業以来継ぎ足されてきた秘伝のタレ。神保町周辺の編集者やビジネスパーソンが、原稿の校了や大きな商談の成功を祝う乾杯の場として同店を愛用していた歴史があります。