家庭製菓において長年信じ込まれてきた「常識」の中には、科学的な観点から見ると逆効果を生んでいるものが少なくありません。ネット上に溢れる情報の信憑性を検証し、誤解を正しておく必要があります。
代表的な誤解が「パイの表面に塗るツヤ出し用の卵液を、生地のフチや断面にまでたっぷり塗ってしまう」という行為です。見栄えを良くしようとする親切心が仇となり、断面のパイ層に卵液が流れ込むと、熱凝固したタンパク質が接着剤の役割を果たしてしまいます。結果として、生地が本来持ち上がろうとする力を阻害し、パイがペタッと潰れてしまうのです。卵液はパイの上面だけに薄く塗り、カットした断面には絶対に触れさせないことが鉄則です。
また、「煮たりんごは熱々のうちに包んだほうが生地に馴染む」という言説も明らかな誤謬です。高温のりんごフィリングをパイ生地に乗せた瞬間、接触面の油脂が溶け出し、グルテンが脆化して水分を吸着します。これが「底の生焼け」を引き起こす失敗しない決定的な理由の筆頭に挙げられます。加熱したりんごは、必ず粗熱を取り、冷蔵庫で最低でも15分以上冷やしてから包むことが不可欠です。