冷蔵庫の電源を切れば自然と水が消えてなくなるわけではありません。水抜き作業が必要となる背景には、冷蔵庫が冷気を生み出す物理的なメカニズムが深く関係しています。家庭用冷蔵庫は、冷媒ガスを圧縮・循環させることで庫内の熱を奪い、裏側の冷却器(エバポレーター)に強い冷気を作り出しています。この冷却器の表面には、空気中の水分が氷結した「霜」が常にびっしりと付着しています。
通常の運転状態であれば、ヒーターによる自動霜取り機能が作動し、溶け出た水はドレンホース(排水管)を経由して本体下部にある「蒸発皿(ドレンパン)」へと流れます。その後、コンプレッサーが発する熱風によって水分を空気中へ自然蒸発させる仕組みが確立されています。しかし、引越しのために電源プラグを抜くとコンプレッサーの稼働が停止するため、蒸発皿の水は気化することなく液体として滞留し続けます。
さらに厄介なのが、冷却器の奥深くに残った分厚い霜です。電源を切ってから室温で完全に融解するまでには、外気温にも左右されますが最短でも10〜15時間程度の時間を要します。中身を片付けて直前にコンセントを抜いただけの状態で本体を前後に傾けると、解け始めた氷水が通気口や受け皿から一気に溢れ出します。これがトラックの荷台や新居の床を水浸しにする最大の原因です。
国土交通省が定める「標準引越運送約款」においても、荷主(依頼側)は運搬に適した状態へ荷造り・整備を行う義務が明記されています。水抜きが不十分で他の荷物や車両を汚損する危険があると現場リーダーが判断した場合、当日の運搬を拒絶されるか、後日配送による追加料金を請求される事態に陥りかねません。水抜きは単なる掃除ではなく、大切な家財と新生活の資産を守る必須の防護措置といえます。