閉館の報が流れた際、来訪者の間で最も懸念されたのが、長年同園の象徴として愛されてきた生き物たちの処遇でした。串本海中公園は、単なる見世物の水族館ではなく、1995年に世界で初めてアカウミガメの人工産卵・孵化・人工初期育成に成功した、国際的にも知られる海洋生物研究のパイオニアだったからです。
特に屋外に設置されていたウミガメプールには、甲長1メートルを超える親ウミガメから生まれたばかりの子ガメまで常時数十頭が暮らしており、閉館に伴う移転作業は極めて慎重に行われました。調査によると、生物たちの水族館移転先は行き当たりばったりの放出ではなく、和歌山県内の「アドベンチャーワールド」や「太地町立くじらの博物館」をはじめ、近畿・中四国エリアの日本動物園水族館協会(JAZA)加盟園館、さらには長年共同研究を続けてきた大学海洋研究機関へと計画的に分散譲渡されました。
かつて長さ24メートルにおよぶ水中トンネル水槽を優雅に泳いでいたアオザメ、マダラトビエイ、クロヘリメジロザメなどの大型回遊魚や、串本沿岸のイシサンゴ類・熱帯性魚類も、専門の活魚輸送車によって各施設へと無事に搬送を完了しています。長年現場を支えてきた熟練飼育スタッフの一部も、生き物の受け入れ先施設へ同行・技術指導を行うなど、半世紀培われた飼育ノウハウの散逸を防ぐ手立てが講じられました。