あべこべの概念が描かれた代表的なエピソード「あべこべの星」や関連短編では、性役割や社会規範の逆転が鮮烈なタッチで描写された。少年たちが着飾ってままごと遊びに興じ、少女たちが勇ましく木登りやチャンバラに熱中する街並み。昭和の固定的なジェンダー観が色濃かった時代において、この描写は単なるナンセンスコメディの枠を遥かに超えていた。
小学館の学年誌や単行本を通じてこの物語に触れた当時の子どもたちは、無意識のうちに「当たり前」を疑う視点を手に入れていたに違いない。男らしさや女らしさといった社会的規範がいかに脆い足場の上に成り立っているかを、理屈ではなく視覚的な違和感として突きつける。常識を裏返すことで日常の滑稽さを浮き彫りにする手法は、まさに風刺文学の王道を行く切れ味を誇っている。