壁画の修復史は、まさに劣化との戦いだった。通常のフレスコ画は、漆喰が乾かないうちに一気に描き切る必要がある。だが、完璧主義者であり、思考を巡らせながら何日も沈思黙考するダ・ヴィンチにとって、そのスピード感は致命的に合わなかった。
彼が選んだのは、乾いた壁にテンペラと油彩を塗り重ねる独自のアプローチ。結果として完成直後から絵の具が剥がれ落ちる悲劇に見舞われたわけだが、研究チームは「この技法でしか表現できないボカシ(スフマート)の効果があった」と指摘する。耐久性を犠牲にしてでも、彼は質感のリアルさと空気感を追い求めた。その偏執的なこだわりこそが、失われかけた今なお人々を惹きつけてやまない理由かもしれない。