「ウィー・アー・ザ・ワールド」の詞世界は、聴く者を傍観者の立場から一瞬で当事者へと引きずり出す。冒頭でライオネル・リッチーとスティーヴィー・ワンダーが語りかけるフレーズから、楽曲は静かに、しかし力強く加速していく。
“There comes a time when we heed a certain call / When the world must come together as one”
(助けを求める切実な声に、私たちが耳を傾けるべき時が来る。世界がひとつになって立ち上がらなければならない時が)
ここでの「call」とは、単なる遠くのSOSではない。人間としての尊厳を問う切実な呼びかけだ。続くサビのフレーズこそ、この楽曲の核を成すメッセージである。
“We are the world, we are the children / We are the ones who make a brighter day, so let's start giving / There's a choice we're making, we're saving our own lives / It's true we'll make a better day, just you and me”
(私たちが世界であり、私たちが子供たちなのだ。より明るい明日を創り出すのは私たちなのだから、今こそ分かち合おう。私たちは自らの命を救うという選択をしている。そう、あなたと私で、もっと素晴らしい明日を創れるのだから)
“When you're down and out, there seems no hope at all / But if you just believe there's no way we can fall / Let us realize that a change can only come / When we stand together as one”
(打ちひしがれ、希望が見えなくなったとしても、挫けることはないと信じよう。私たちがひとつになって立ち上がった時、初めて世界は変わるのだから)
マイケル・ジャクソンが筆を執り、推敲を重ねたこの歌詞が優れているのは、支援対象を「かわいそうな他者」として突き放していない点にある。「手を差し伸べることで、救われているのは私たち自身だ」という視点は、従来の慈善事業の概念を根底から覆した。他者への同情ではなく、人類という一つの共同体としての自己救済。それこそが、この歌詞に込められた最大の深意なのだ。