コハダの真骨頂である「酢締め」の技術。職人たちが厨房の奥で門外不出としてきた仕込みの工程には、明確な科学的アプローチと長年の勘が存在する。
下処理で最も重要なのは「ベタ塩」と呼ばれる均一な塩振りだ。脂の薄い夏場は20分前後、脂が乗った冬場は40分から50分ほど塩を当て、余分な水分と特有の臭みを抜き去る。その後、水や薄めた酢で素早く塩を洗い流す「酢洗い」を経て、いよいよ本漬けへと移る。
通を唸らせる極上の味を生み出す秘訣は、塩で脱水された身に酢を吸わせる絶妙な浸漬時間にある。赤酢や米酢に昆布の旨味を加えた合わせ酢に、わずか3分から10分ほど潜らせる。取り出した直後は酸味が立ちすぎているため、冷蔵庫で1〜2晩「寝かせる」ことで、塩分と酸味が身の中心まで均一に回り、アミノ酸の旨味が劇的に凝縮されるのだ。