だが、静寂に包まれた水深1000メートルの世界も、決して地球規模の環境変化と無縁ではない。現在、北太平洋の深層循環の変化に伴い、深海水温のわずかな上昇と貧酸素化が進行していることが問題視されている。
代謝機能が極限まで削ぎ落とされた彼らにとって、海水温がわずか0.5度上昇するだけでも、その生理的負担は計り知れない。餌となる甲殻類や微小生物の分布変化も重なり、生息域の移動や個体数の減少を示唆するデータが各地の観測ステーションから報告され始めている。
一見すると遠い深海の出来事に思えるが、表層の海洋環境の悪化が直ちに最深部へと波及している事実は、地球の海洋サイクルがいかに繊細に結びついているかを突きつけている。