東ゴルトー共和国で生まれたコムギは、貧困家庭に育ち、鼻水を垂らした貧相な身なりで描かれる。自身の存在価値を「軍儀の盤上」にしか見出せない不器用な少女だった。軍儀とは、その世界における架空の盤上競技。将棋やチェスを思わせる高度な心理戦と先読みが要求される世界で、彼女は世界王者として不敗を誇っていた。
王メルエムは、あらゆる種族の頂点に立つ圧倒的暴力と知性の象徴として君臨していた。他者を踏みにじることに躊躇がなかった暴君が、暇つぶしとして挑んだ軍儀。そこで出会ったのがコムギである。メルエムは知略においても人類を凌駕している自負があったが、何度対局を重ねてもコムギを打倒することができなかった。
勝負の渦中、コムギが見せる一瞬の閃きと真剣勝負への執念。そこには、生死を賭けた戦場で命を燃やす武闘家と同等の覚悟が存在していた。王にとって彼女は、暴力では絶対に屈服させられない「最初のエリート」としてその目に映り始めたのである。