吉田寮の中庭を歩くと、放し飼いにされた鶏やエミューの鳴き声が響き渡る。冬になれば食堂にコタツが並び、留学生と学部生、時には地域住民までもが車座になって鍋を囲む。この一見無秩序に見える空間を統制しているのが、吉田寮自治会による徹底した直接民主制だ。
何事も多数決では決めない。全員が納得するまで夜を徹して議論を尽くす「全寮集会」が、自治の根幹を成している。些細なルール改定から大学当局への抗議声明に至るまで、徹底的な合意形成が求められる。このプロセスは外部から見れば非効率の極みであり、時に狂気すら感じさせる。しかし彼らにとって、これこそが他者に自己決定権を委ねないための絶対防壁なのだ。
経済的困窮者や留学生、マイノリティを排除せず包摂してきた歴史は、この強固な学生自治の賜物である。制度の網目からこぼれ落ちた者たちを受け入れるセーフティネットとして、吉田寮は100年以上にわたり機能し続けてきた。