「倍速で観るなんて作品への冒涜だ」「若者の文化離れだ」といった安易な感情論や世代間批判で片付けられがちだった鑑賞スタイルの変化に対し、まったく異なる解像度で切り込んだのが稲田豊史氏でした。彼が提示したのは、「供給過多」「時間的制約」「コミュニケーションの道具化」「失敗したくない不安」という、現代社会を覆う構造そのものの歪みです。
稲田氏がこのテーマを深く掘り下げる契機となったのは、ネット上で横行した「ファスト映画(違法な要約・あらすじ動画)」の流行と、大学生やビジネスパーソンへの徹底的なヒアリングでした。取材を進める中で浮かび上がったのは、決して映画を嫌っているわけではなく、「友人との会話から取り残されたくない」「膨大なコンテンツを消化しなければならない」という強迫観念に追われる生活者の姿だったといいます。
単なる現象の告発にとどまらず、映像の作り手側の演出技法やプラットフォーム側のUI設計、さらには学校教育や労働環境の変化までを一連の因果関係として結びつけたアプローチは、多くの読者や批評家に強い衝撃を与えました。「自分たちの無意識の行動を完璧に言語化された」という共感が広がり、現代の消費社会を語る上で欠かせないキーパーソンとしてその名が轟くことになります。