沢村貞子のバックボーンを語る上で欠かせないのが、日本芸能史に燦然と輝く華麗な家系図です。明治41(1908)年、東京・浅草に狂言作者の娘として生まれた彼女の家族は、まさに演劇と映画の申し子たちでした。
長兄は歌舞伎や映画界で活躍した沢村国太郎、次兄は黒澤明監督作品などで親しまれた名優の加東大介です。さらに甥には、昭和・平成の日本映画界を牽引した長門裕之・津川雅彦兄弟が名を連ねています。まさに日本のエンターテインメント界を代表する名門一族の血筋を引いていました。
日本女子大学師範家政科に進学した彼女は、社会意識の高さから新協劇団などの左翼演劇運動に参加し、治安維持法によって投獄されるという過酷な若年期を経験しました。残された若い頃の写真には、強い意志を秘めた涼やかな瞳と、知的な美貌がはっきりと刻まれています。出獄後、生活のために映画界へ身を投じた彼女は、主役を完璧に引き立てる名脇役としての地位を自らの実力で確立していきました。