安藤和津のルーツを語る上で避けて通れないのが、日本近代史にその名を刻む「犬養家」の存在だ。祖父は「話せば分かる」の言葉を残して五・一五事件で凶弾に倒れた第29代内閣総理大臣・犬養毅。そして父は、法務大臣や小説家としても活躍した犬養健である。
だが、その血筋は決して平坦な特権階級の道を用意したわけではなかった。和津は、健と料亭を営んでいた柳橋の元芸妓との間に生まれた「非嫡出子」という複雑な境遇にあった。幼少期は自らの出自を周囲に明かせず、母の愛と父への思慕、そして世間体の狭間で葛藤を抱えながら育ったという。名門の重圧と日陰の存在という二面性を抱えた少女時代が、後の彼女の繊細かつ強靭な人間観察眼と、表現への強いエネルギーを育んだのは間違いない。