矢本が魅せる演技の根底には、徹底したキャラクター分析と、カメラの前で自由に解き放たれる野生的な直感が同居している。役柄の背景を徹底的に読み込み、その人物が生きる日常の匂いや癖までも身体に染み込ませる。だが、いざ本番のブザーが鳴れば、積み上げた論理を大胆に手放し、その場の空気と共演者の反応に身を委ねるのだ。
この「計算された偶然性」こそが、彼の演じる人物たちに生々しい現実感を与える。台本上のセリフが、彼の口を通した瞬間に今思いついた生きた言葉へと昇華する。その呼吸感こそが、観る者に「この人物は画面の外でも生きている」と確信させる最大の理由だ。