酢乙女あいを語る上で最大の核となるのが、主人公・野原しんのすけに対する異常なまでの執着です。転入初日、投げキッスや上目遣いといった「恋の矢」を放ち、園内の男子たちを次々と骨抜きにしていったあいちゃんですが、ただ一人、大人の美女(女子大生や幼稚園の先生)にしか興味を示さないしんのすけには一切通用しませんでした。
自分の魅力が通じないどころか、名前すらまともに覚えてもらえないという生まれて初めての挫折を経験したあいちゃんは、心理学でいう「認知的不協和」と「獲得動機」が極限まで刺激された結果、しんのすけを「しん様」と呼び、熱烈なアプローチを繰り返すことになります。
この一方通行の熱狂は、カスカベ防衛隊の既存メンバーとの間に極めてユニークな力学を生み出しました。
まず、彼女に完全に心を奪われてしまったマサオくんに対しては、徹底して冷淡です。「愛の奴隷」「足毛ちゃん」などと呼び、都合のいいパシリとして扱いながらも、マサオくん自身はそのわずかな接触に歓喜するという歪んだ三角関係が定着しました。
さらに、カスカベ防衛隊の紅一点であった桜田ネネちゃんとは、激しいライバル関係にあります。ネネちゃんの十八番である「リアルおままごと」に対抗し、莫大な資本力とリアルな脚本を持ち込んで主導権を奪い合うマウンティング合戦は、平成後期のシリーズにおける屈指の名物シークエンスとなりました。あいちゃんの存在は、予定調和になりがちだった幼稚園の日常に強烈な緊張感と笑いをもたらしたのです。