調理器具や給湯設備は通常、水や油、食材が熱エネルギーを吸収・分散することを前提に設計されています。熱伝導によって熱を逃がす対象が存在しない場合、熱源からのエネルギーはすべて器具本体の温度上昇へと集約されます。これが空焚きの根本的な物理現象です。製品評価技術基盤機構(NITE)や各地の消防局が公開している実験データによれば、強火にかけたフライパンはわずか約2分から3分で300℃以上に達し、放置を続ければ5分足らずで500℃近くまで跳ね上がります。
この急激な過熱によって直面するのが、空焚きの火災危険性です。器具の周囲にある可燃物(換気扇フィルターの油汚れ、壁面の可燃性クロス、近くに置かれたキッチンペーパーなど)へ放射熱が伝わり、直接炎が触れていなくても着火する「熱放射発火」を引き起こします。さらに、底面が変形してバーナーの炎が不均一に広がり、周囲の可燃物に引火するケースも後を絶ちません。
また、熱源そのものの火災だけでなく、コーティングの熱分解も見過ごせません。ノンスティック加工の代表であるフッ素樹脂(PTFE)を用いた調理器具では、フッ素加工の空焚き危険温度とされる約260℃を超えると劣化が始まり、約350℃を超えると熱分解によって微粒子状の有毒ガスが発生します。これを吸入すると、人間にはインフルエンザに似た悪寒や発熱、頭痛をもたらす「ポリマーヒューム熱」を引き起こすほか、呼吸器系が極めてデリケートな小鳥などのペットに対しては致死的な毒性を示します。「煙が出ているだけ」と軽視して換気を怠ると、呼吸器系に重篤な健康被害を及ぼす危険を直視しなければなりません。