本作の主人公・山田テルコは、決して「悲劇のヒロイン」として綺麗に描かれない。20代後半の彼女は、マモルと出会った瞬間から生活のすべてを彼一色に染め上げていく。仕事中に電話があれば仮病を使って早退し、頼まれもしないのに彼の部屋を掃除し、手料理を振る舞い、夜中に呼び出されれば終電を逃して駆けつける。客観的に見れば、自尊心をかなぐり捨てた痛々しい「都合のいい女」そのものだ。
だが、スクリーン越しに彼女を嘲笑できる観客がどれほどいるだろうか。恋に落ちた人間が持ち得る狂気、好きな人の日常の端っこに滑り込みたいという切実な願望を、映画は容赦なく暴き出す。「重い」「惨め」「滑稽」。そんな冷淡な言葉で切り捨てられない生々しい体温がテルコの行動には宿っており、それが観客自身の秘めた過去の傷口を容赦なく開いていく。痛いのに目が離せない、その強烈な牽引力こそが本作最大の魔力だ。