映画監督の夫・谷口千吉とともに山歩きを愛し、自然を慈しむ私生活を送っていた彼女の素顔は、極めて質素で飾らないものだった。共演した俳優たちが口を揃えるのは、現場での圧倒的な気配りと、驚くほどの頑固さだ。自らが納得しない演技には決して妥協せず、監督と静かに、しかし徹底的に対話を重ねた。周囲を威圧するのではなく、その佇まいそのもので現場の空気を引き締める、稀有なリーダーシップの持ち主だったといえる。
華やかなスポットライトを浴びながらも、常に一個の生活者としての慎ましさを失わなかったこと。それが、彼女の芝居に独特の奥行きと説得力を与えていた。美しさのなかに芯の通った強靭な意志を宿していたからこそ、昭和から平成という激動の時代において、人々の心に寄り添う名女優として君臨し続けることができたのである。