『鷺娘』の最大の視覚的見どころのひとつが、舞台上で瞬時に着物を変える「引き抜き(ひきぬき)」および「ぶっ返り」の技法です。玉三郎の舞台では、息を呑むような衣裳転換が連続して披露されました。
冒頭の純白の白無垢姿から、後見(舞台上で役者を補助する黒衣など)が一瞬にして糸を抜くと、鮮やかな朱色や紫の町娘の振袖へと姿を変えます。この間、踊りの所作は一切途切れることがありません。衣装が変わるたびに客席からは大きなどよめきと拍手が湧き起こりました。
さらに注目すべきは、玉三郎本人の計算し尽くされた身体の使い方です。何重にも重ね着された衣装の総重量は約15kg〜20kgにも及びます。その重量を背負いながら、軽やかに下駄を鳴らし、しなやかに海老反り(えびぞり)を決め、膝をついて回転する過酷な動きを、涼やかな表情を一切崩さずにこなしていました。視覚的な華やかさの裏には、極限まで鍛え抜かれた体幹と衣装の重みを感じさせない圧倒的な技術が隠されていたのです。