松助の芸歴を語る上で欠かせないのは、彼が決して平坦な道を歩んできたわけではないという点だ。子役として劇団新派の舞台で頭角を現し、二代目尾上松緑に入門。門閥外からのスタートという過酷な環境下で、実力のみを武器にして六代目尾上松助の名跡を襲名するに至った軌跡は、伝統芸能の歴史においても特筆すべき大逆転劇である。
2005年、彼が59歳の若さで急逝した際、当時まだ20歳だった長男の尾上松也は途方もない喪失感と重責の中に放り込まれた。一門を背負い、父が遺した大きな名前と向き合う苦悩。だが、松也が後に見せた飛躍の原動力となったのは、幼少期から楽屋で叩き込まれた父の厳格な稽古と、「どんな小さな役でも客席の最後列まで届く熱量で演じろ」という遺訓だった。血脈の継承とは、単なる名前の受け渡しではない。逆境に抗い、芸を磨き抜く覚悟そのものが、父から子へと受け継がれた名跡の真実なのだ。