多くの人が抱く「なぜキリの悪いマイナス273.15℃なのか」「マイナス300℃やマイナス1000℃が存在しないのはなぜか」という疑問の答えは、温度という物理量の正体に隠されています。
私たちが肌で感じる温かさや冷たさの正体は、物質を構成する原子や分子が起こしている振動や衝突、すなわち「熱運動」の激しさです。気体や液体、固体を問わず、すべての物質内の粒子は常にランダムに動き回っています。粒子の運動スピードが速く激しい状態を高熱、動きが鈍く穏やかな状態を低温として観測しているわけです。
温度を下げていくということは、粒子の熱運動のエネルギーを奪っていく行為に他なりません。運動を抑制し続けると、いずれ粒子が物理的に動けなくなる極限の限界点に到達します。これ以上はエネルギーの奪いようがない「運動の限界停止地点」が存在し、それが絶対零度(0 K)です。マイナス300℃が存在できないのは、「止まっている状態よりも静かに止まる」ことが不可能なのと同じ論理です。
では、なぜその値が具体的に「マイナス273.15℃」として算出されるのでしょうか。ここには気体の性質を解き明かした「シャルルの法則」が深く関わっています。
18世紀末、フランスの科学者ジャック・シャルルらは気体の体積と温度の関係性を詳細に調査しました。その結果、圧力が一定である場合、理想的な気体は温度が1℃下がるごとに、0℃のときの体積から「約273.15分の1」ずつ収縮していくという規則性を突き止めました。
この減少率をグラフ上で外挿(そのまま直線として延長)していくと、ある温度で気体の体積が計算上ゼロになります。その温度こそが、マイナス273.15℃です。物質の体積がマイナスになることはあり得ないため、この点が幾何学的・熱力学的に導かれた自然界の絶対的な底底(ていてい)となります。後の精密な気体温度計の実験や熱力学の理論的裏付けを経て、この数値は科学的事実として確定しました。