ルネサンス美術の歴史を振り返れば、レオナルドの構図がいかに異端であったかがよくわかる。それまでの画家たち、例えばギルランダイオやカスターニョは、ユダをテーブルの手前側にぽつんと一人だけ座らせていた。誰が裏切り者かを鑑賞者に一瞬で分からせるための、分かりやすい「記号」としての配置だ。
しかしレオナルドはその安易な演出を真っ向から拒絶した。裏切り者は決して目立つ異端者としてではなく、愛する仲間の中に紛れ込んでいる。そのリアルな心理的恐怖を描くため、ユダを他の使徒たちと同じテーブルの奥側に並べたのだ。
仲間と同じ空間にいながら、精神的には完全な孤独の闇に落ちている男。この複雑怪奇な人間心理の可視化こそ、レオナルドが到達した絵画表現の極致だった。