穴熊肉のポテンシャルを余すところなく味わい尽くす料理、その最高峰は間違いなく「すき焼き」である。伝統的にマタギの間では「穴熊鍋」として味噌仕立てで食されてきたが、現代の卓越した処理肉には、醤油とみりん、酒、ざらめで作る濃厚な割下が驚くほど調和する。
調理の要は、まず鍋肌に穴熊の脂身を直接押し当て、溶け出した黄金色の脂で肉の表面を軽く焼き固めることだ。立ち上る香ばしい甘みを引き出した後、割下を注ぎ、千切りにした根生姜、笹掻きごぼう、下仁田ネギなどの香味野菜を投入する。煮え立つ割下に肉の脂が溶け込み、出汁全体が黄金色に輝き始めた瞬間が最高の食べ頃となる。溶き卵にくぐらせて口に運べば、とろける脂の甘みと赤身の力強い旨味が一体となり、官能的ともいえる余韻を残す。