播州一献を語る上で欠かせないのが、蔵元である山陽盃酒造(1837年創業)を襲った試練と、そこからの奇跡的な再起です。2018年11月、酒造りの最盛期を迎えていた蔵を突如として大規模な火災が襲い、江戸時代から続く木造蔵を含む敷地の主要部分が全焼しました。丹精込めて仕込んだ醪(もろみ)や貴重な資材の多くが灰燼に帰し、一時は廃業の危機さえ囁かれたほどです。
しかし、蔵元の前田剛孝氏を中心に蔵人たちは決して諦めませんでした。近隣の蔵元や全国の地酒ファン、特約店からの温かい支援を受け、火災直後から別の場所で酒造りを継続。その後、徹底的な温度管理が可能な最新鋭の冷蔵設備や小ロット醸造設備を備えた新蔵を再建しました。
この災禍を契機に、山陽盃酒造の酒造りは大きな転換点を迎えます。「ただ元の状態に戻すのではなく、以前よりも圧倒的に高品質な酒を造る」という強い信念のもと、醪の発酵管理や搾りのプロセスを徹底的に見直しました。その結果、雑味を極限まで削ぎ落とし、フレッシュな透明感と米のポテンシャルを最大限に引き出した新生・播州一献が誕生し、現在の揺るぎない人気へとつながっています。