「現場の空気は異様だった。誰もが何かに憑りつかれたようにカメラの前に立っていた」。制作現場の最前線にいた主要スタッフのひとりは、張り詰めた面持ちで重い口を開いた。映画『山家』の核となる主人公の宿敵役に、これまで一切名前が伏せられていた若手実力派俳優が電撃抜擢されていた事実が、今回の独自取材で判明した。
オーディションは完全非公開で行われ、候補者たちには偽の脚本が手渡されるほどの徹底ぶりだったという。キャスティング難航の末に白羽の矢が立ったのは、近年の舞台や単館系映画で凄まじい存在感を放っていた新星だ。撮影直前に敢行された過酷な肉体改造と方言指導により、スタッフすら本人だと気付かないほどの変貌を遂げたという。現場では予定にないアドリブの応酬が幾度となく発生し、監督のカットがかかった瞬間、スタッフの間から自然と息を呑む音が漏れたと証言者は語る。