日本画における猫の歴史を語る上で欠かせないのが、江戸時代後期の浮世絵界を席巻した歌川国芳(うたがわくによし)の存在です。無類の猫好きとして知られた国芳は、常に何匹もの猫を懐に入れて作画していたと伝えられます。
国芳の手にかかると、猫はただの愛玩動物にとどまらず、東海道五十三次の宿場町を猫の駄洒落で表現した『猫飼好五十三疋(みょうかいこうごじゅうさんびき)』のように、擬人化されたユーモラスな主役へと変貌しました。国芳の鋭い観察眼と卓越したデッサン力があったからこそ、コミカルな表現の中にも本物の猫の骨格や生態が完璧に息づいていたのです。
そして時代が下り、近代日本画の専門美術館として名高い山種美術館には、竹内栖鳳『班猫』を筆頭に、奥村土牛、小林古径、速水御舟ら名だたる巨匠が描いた猫の名作群が集結しています。伝統的な絵具である岩絵具(いわえのぐ)や和紙・絹本を用いながら、画家たちがそれぞれの美意識をぶつけ合った猫の絵画は、近代日本美術の精華として今も燦然と輝いています。