第69回NHK紅白歌合戦の夜、誰もが予想しなかった圧巻の光景が全国のお茶の間に広がった。米津玄師が生中継の舞台として選んだのは、東京のスタジオではなく、故郷・徳島に位置する大塚国際美術館だった。披露された楽曲は、その年の音楽シーンを席巻した歴史的名曲「Lemon」。生放送でのTV歌唱自体が極めて異例であり、日本中が息を呑んでその一瞬を見守っていた。
舞台となったシスティーナ・ホールには、無数の蝋燭(ろうそく)が並べられ、幽玄な炎の揺らめきが空間を包み込んだ。スタッフ陣が綿密に計算し尽くした灯りの配置と、残響音が重なり合う響きの演出。それは単なるセットではなく、楽曲の持つ生と死、切なさと祈りの世界観を立体化させた芸術そのものだった。現在も聖地巡礼で訪れるファンを魅了してやまないこの空間には、今なおあの夜の特別な熱量がそのまま保存されているかのような静謐な空気が漂っている。