作中で描かれる「ファナモ」とは、人類が長年行ってきた従来の排泄行為に取って代わるまったく新しい排泄物の代替物質です。見た目は黒く無機質な細長い棒状で、一切の臭いがなく、生々しい汚さも存在しません。トイレに座って力む必要すらなく、決まった時間に体外へと静かに滑り出してくるため、排泄という行為そのものが劇的にクリーンでスマートなものへと変貌しています。
ファナモを排出する体になるためには、簡単な手術(換装手術)を受ける必要があります。世間では若い世代や流行に敏感な人々を中心に急速に普及し、「ファナモを出す人=清潔で洗練された人間」「従来の排泄を続ける人=時代遅れで不潔な旧人類」という無言の格差や差別意識が生まれ始めていました。
温子の恋人・拓也はいち早く手術を受け、すでにファナモ派となった人物です。拓也は温子に対して「結婚するなら手術を受けてファナモになってほしい」「従来の排泄なんて不潔で非効率だ」と強く迫ります。しかし温子は、人間の持つ生々しさや、排泄という本能的な営みを完全に捨て去ることに強い抵抗感を抱き、決断をためらっていました。