物語の序盤、19世紀のパリ・オペラ座(ガルニエ宮)を舞台に繰り広げられる悲喜劇。怪人の嫌がらせによってプリマドンナのカルロッタが突如降板し、誰もが立ち尽くす惨状のなかでスポットライトを浴びたのが、コーラスガールに過ぎなかったクリスティーヌ・ダーエだ。彼女が恐る恐る歌い始めるこの楽曲は、劇中劇『ハンニバル』のリハーサル現場から、一夜にして華やかな大本番の舞台へと継ぎ目なく変貌を遂げる圧密な演出で描かれる。
静かなピアノの伴奏とともに震える声で歌い出された旋律は、節々で確信を帯び、やがて劇場全体の空気を震わせる朗々たるソプラノへと開花する。無名の新人歌手が一瞬にして輝かしいスターへと駆け上がるカタルシス。この一曲こそが、演劇・ミュージカル業界の歴史においても屈指の名シーンとして語り継がれる最大の要因である。