ジャーナリストが戦場に身を置くことに対しては、常に危険や自己責任を巡る議論がつきまといます。それでも山本美香さんが危険地帯へ向かい続けた決定的な理由は、「普通に暮らしていた人々の日常が理不尽に奪われていく現実を、誰かが記録し伝えなければならない」という強い使命感にありました。
大国の政治的思惑や軍事作戦の勝敗ばかりが報じられる国際ニュースの陰で、山本さんの視線は常に「台所で食事を作る母親」や「瓦礫の中で遊ぶ子どもたち」に向けられていました。彼女自身、生前に次のような言葉を残しています。
「戦争の犠牲になるのは、いつの時代も決断を下す指導者ではなく、今日を懸命に生きようとしている市井の人々です。その痛みを遠い国の出来事として片付けないために、現場の空気感をそのまま届けたい」
威圧感を与えない柔らかな語り口と、女性ならではのきめ細やかな取材アプローチは、警戒心の強い現地の女性や子どもたちから本音を引き出す類まれな力を持っていました。恐怖に怯えながらもカメラを回し続けた原動力は、戦禍の理不尽に対する静かで強い怒りだったのです。