信長がその集大成として築き上げたのが、琵琶湖東岸に屹立した安土城下町である。太田牛一が記した一級史料『信長公記』には、安土に対する異次元の優遇措置が生々しく記録されている。他国からの商人を呼び寄せるための諸税免除、居住の自由、そして何より城下町を通過する街道の強制的なルーティングだ。
信長は単に「市場を自由化」したのではない。周囲の迂回路を遮断し、すべての旅人と物資が必ず安土を通過せざるを得ないボトルネックを人工的に作り出した。情報の独占、物流の掌握、そして膨大な消費人口の集約。安土は、武力と経済的インフラを極限まで融合させた前近代における巨大なプラットフォームビジネスの実験場だったといえる。