木漏れ日が揺れる山あいの小道。風が吹くと、薪を燃やす微かな匂いが鼻腔をくすぐる。東市来町美山は、日本の伝統工芸産業を代表する薩摩焼のふるさとだ。文禄・慶長の役の折、海を渡ってきた朝鮮半島の陶工たちがこの地に窯を開いてから四世紀以上。その系譜は途切れることなく息づいている。
とりわけ名高い沈壽官窯の敷地に足を踏み入れると、凛とした空気に圧倒される。司馬遼太郎の小説『故郷忘じがたく候』の舞台としても知られる歴代の沈壽官。白薩摩の精緻を極めた透かし彫りや繊細な絵付け、そして庶民の生活に寄り添う黒薩摩の重厚な質感。工房からは今も、土と格闘する職人たちの澄んだ息づかいが聞こえてくる。伝統を守るとは、過去の模倣ではなく常に革新を続けること。工房の若き陶芸家たちの真摯な眼差しがそれを物語っている。