本作を唯一無二の存在たらしめているのは、徹底した取材に基づく骨太なポリティカル・サスペンスの構造だ。米ソ冷戦構造、中東の石油利権、バイオテクノロジーの暴走、暗号資産を巡るサイバー戦。描かれる事件の数々は、現実の国際情勢の数か月、時には数年先を予見していたかのように的中してきた。
ジャンルとしてのハードボイルド劇画を極限まで洗練させたストイックな文体は、甘美な感傷や特定のイデオロギーを一切排除する。国家元首もストリートチルドレンも、放たれる一発の銃弾の前では完全に平等だ。この妥協のない冷徹さこそが、激動の世界情勢に疲弊した大人の読者を惹きつけてやまない。