小倉から列車に揺られて約十五分。潮風と明治・大正期の赤煉瓦建築が迎えてくれる門司港レトロ地区へ足を踏み入れると、どこからともなく食欲をそそるスパイスと香ばしいチーズの匂いが漂ってくる。この港町を代表する名物、焼きカレーだ。
発祥は昭和三十年代、とある喫茶店の店主が余ったカレーをオーブンでグラタン風に焼き上げた偶然から始まったとされる。いまや専門店がしのぎを削るこの地では、店ごとに独自のスパイス調合と焼き加減の美学が存在する。耐熱皿の中でグツグツと泡立つ濃厚なルー、こんがりと焦げ目のついたチーズ、そして中央に隠された半熟卵をスプーンで崩す瞬間は、まさに至福の儀式と言える。
ふくの身をトッピングした港町ならではの一皿や、じっくり煮込んだ牛すじ肉がゴロゴロと入った重厚な味わいまで、バリエーションは実に多彩。海を眺めながら味わう熱々の一皿は、旅の記憶に鮮烈な輪郭を刻みつける。