彦根城天守閣は三層三階、地下1階のコンパクトな造りながら、意匠の多様性と実戦機能の融合において日本屈指の完成度を誇ります。外観を見上げると、切妻破風(きりづまはふ)や入母屋破風(いりもやはふ)、優美な曲線を描く唐破風(からはふ)など、多彩な破風が見事に調和しており、見る角度によってまったく異なる表情を見せてくれます。
最上階の3階に設けられた「花頭窓(かとうまど)」や外廻縁(高欄)は、格式の高さを示す禅宗寺院の建築様式を取り入れたもの。しかし、その優雅な装飾の足元には、鉄砲や弓矢を放つための「矢狭間」「鉄砲狭間」が巧みに配置されています。特に壁の内側に隠され、外からは通常の白壁に見える「隠狭間(かくれざま)」は、有事の際に壁を突き破って敵を急襲する仕掛けであり、彦根城ならではの緊迫感を伝えています。
また、彦根城は資材の再利用(リサイクル建築)が行われたことでも知られています。天守の部材には、かつて琵琶湖畔にあった大津城の天守材が移築・流用されており、柱や梁をよく観察すると、以前のほぞ穴やチョナ(釿)で削られた独特の木肌の跡を確認できます。戦乱の時代を生き抜いた木材の息吹を間近で観察できる点も、国宝たる見どころの一つです。