「ドラクエ5の魔法の鍵は作中に存在しない」という言説は、結論から言えば明白な誤認です。ゲーム内に「まほうのカギ」というアイテムは確実に存在し、正規の手順を踏むことで誰でも入手できます。それにもかかわらず、なぜこれほど強固な誤解と都市伝説がネット上で定着してしまったのでしょうか。当時のプレイヤー体験とゲームデザインの変遷を検証すると、3つの心理的トラップが浮かび上がってきます。
第1の要因は、過去シリーズとの入手時期の極端なギャップです。『ドラゴンクエストIII』ではアッサラーム周辺、続く『ドラゴンクエストIV』では第5章序盤のコーミズ西の洞窟など、いずれも冒険の中盤入口にあたるタイミングで魔法の鍵が登場しました。しかし、本作における入手時期は物語がクライマックスへと向かう「青年期後半」のエルヘブンです。前作までの感覚でプレイしていたユーザーほど、「中盤を過ぎても一向に見つからないため、今作には未実装なのではないか」と疑心暗鬼に陥った経緯があります。
第2の要因は、開錠対象となる「扉のグラフィックと役割の混同」です。プレイヤーが冒険序盤で最初に直面する頑丈な扉といえば、カジノの街オラクルベリーの地下牢や、アルカパの宿屋裏にある格子扉です。多くのプレイヤーは「とうぞくのかぎ(盗賊の鍵)で開かないのだから、次は魔法の鍵が必要なのだろう」と推測します。ところが、これらの鉄格子を開ける権限を持つのは最上位の「さいごのカギ」であり、魔法の鍵ではビクともしません。この仕様の食い違いが、「魔法の鍵を探しても意味がない=存在しない」という短絡的な噂へと増幅されていきました。
第3の要因として、魔法の鍵で開く扉の絶対数の少なさが挙げられます。苦労してエルヘブンまで到達して鍵を手に入れたとしても、実際に開けられる扉は世界全体で数カ所しか残されていません。手に入れた実感の薄さと活躍機会の少なさが、後年のレトロゲームコミュニティにおいて「空気のような存在」「実質的にスキップされた鍵」と評され、記憶の風化とともに存在否定説へと変質していったのです。