本作が日本ミステリ界において傑出した評価を受け続ける最大の理由は、その冷徹なまでの二部構成にある。第一部は蘭花の視点から描かれる、狂おしくも切ない恋愛の崩壊劇だ。自身を特別だと信じたい自意識と、都合のいい女として扱われる屈辱の間で引き裂かれる彼女の独白は、読者の共感と哀れみを巧みに誘い出す。
しかし、第二部で語り手が留利絵へとシフトした瞬間、物語の色彩は反転する。第一部で「温かな避難所」に見えていた留利絵の内面は、冷徹な観察眼と支配欲、そして蘭花への執着で埋め尽くされていた。同じ出来事、同じ会話が、語り手を変えるだけでこれほどまでにグロテスクな様相を呈するのか。読後感に苦い棘を残す「イヤミス」の頂点として語り継がれる所以がここにある。