法律に書かれていない「首相」という言葉が、なぜこれほど広く定着したのか。そのルーツは古代中国にまで遡る。
古代中国の王朝において、君主を補佐する最高位の官職を「宰相」や「相国」と呼んだ。その中で最も序列の高い筆頭の官位を「首座の相」、すなわち「首相」と称したのが語源である。これが明治期に入り、西洋の政治制度を日本へ導入する過程で、内閣のトップ(英語のPrime Minister)を指す訳語として再発見された。
1885年に内閣制度が創設され、初代の内閣総理大臣に伊藤博文が就任した際、当時の知識人や新聞記者たちは、馴染みの薄い長大な肩書よりも、古典に由来する「首相」という響きを好んで使った。伝統的な権威を感じさせつつ、行政府の長であることを端的に示す言葉として、「首相」は瞬く間に日本社会へ浸透していった歴史がある。