契約書に判を押し、登記を完了させた瞬間に待ち受けているのは、文明の恩恵が一切存在しない剥き出しの自然だ。
まず直面するのが飲料水の確保である。どれほど広大な島であっても、淡水が出なければ人間は数日と生きられない。井戸を掘削しても海水が混入するリスクが高く、雨水の高度濾過装置や海水淡水化プラントの導入には数千万円単位の初期投資が吹き飛ぶ。電気に関しても、大容量の太陽光パネルと蓄電システムを本土からチャーター船で運び込まなければならない。
船を接岸させるための桟橋建設も難事業だ。公有水面埋立法に基づく都道府県知事の許可が必要であり、環境アセスメントや海上保安庁への航路安全申請など、クリアすべき行政手続きは山積みとなる。自然公園法や森林法による厳しい開発規制がかけられている区域では、木を1本伐採することすら違法行為になりかねない。
「別荘を建てる感覚で島を買った人間が、ゴミ処理や資材運搬の輸送コストに耐えかねて数年で手放す」。現地事情に詳しい不動産関係者はそう苦笑する。自然の支配地を人間の生活圏へと作り変えるには、土地代の数倍から数十倍に及ぶ維持管理費を覚悟しなければならない。