本書でダグラス・マレーが一貫して訴えているのは、ヨーロッパという文明が他者によって武力侵略されたのではなく、「自らの意志によって死を選択している」という極めて痛烈な事実です。著者はその衰退をもたらした主因として、以下の二重の要素を挙げています。
第一に、大量の移民・難民の流入と人口動態の激変です。短期間に既存の社会システムや文化圏へ異質な価値観を持つ人々が大量に定着したことで、従来の統合メカニズムは完全に崩壊しました。第二に、西洋人自身の深刻なアイデンティティ喪失と罪悪感です。キリスト教的基盤の形骸化と過去の植民地支配への過度な自責感情が結びつき、「自らの文化を守る価値がある」と主張すること自体をタブー視する風潮が定着してしまいました。
これら2つの病理が重なった結果、欧州は自らの存在基盤を誇ることをやめ、急速に変容を受け入れる受動的な存在へと成り下がってしまったと本書は論じています。