この分泌液の真骨頂は、その化学的安定性と段階的な変色プロセスにある。分泌直後の無色透明な液体は、大気に晒されると瞬時にヒポスドール酸の重合反応が始まり、濃密な赤色へとシフトする。さらに時間が経過して重合が進行すると、数時間から数日をかけて安定した褐色ないし暗橙色のポリマーへと変貌を遂げる。
この重合反応は単なる見た目の変化ではない。液体から高分子の薄膜へと性状が変化することで、皮膚表面に耐水性の高い保護用コーティング膜が形成されるのだ。水中に長時間潜る性質を持つカバにとって、水で簡単に流されてしまわない塗膜を作る能力は、生存上不可欠な適応進化の成果と言える。