日本国内において積極的安楽死が認められない最大の要因は、日本の法律(刑法)に明確な違法性阻却規定が存在しない点にあります。本人がいくら明確に「殺してほしい」と懇願し、同意書に署名していたとしても、第三者がその生命を奪えば刑法第202条(嘱託殺人罪・同意殺人罪)に抵触し、6月以上7年以下の懲役または禁錮に処されます。
過去の司法判断において、医師による積極的安楽死が例外的に違法性を阻却(免責)されるための基準が示された代表例が、1995年の東海大学安楽死事件に関する横浜地裁判決です。この判決では、医師が積極的安楽死を行う際の厳格な4つの要件が提示されました。
- 患者が耐え難い肉体的苦痛に苦しんでいること
- 患者の死が避けられず、死期が迫っていること
- 肉体的苦痛を除去・緩和するための代替手段が他に尽きていること
- 患者本人の明確な意思表示があること
しかし、この裁判で被告となった医師には有罪判決(懲役2年・執行猶予2年)が下されました。緩和ケアの手段を尽くしていなかったことや、患者本人の真意による直接的な意思表示が確認できなかったと判断されたためです。法曹関係者の間では「この4要件を実際の臨床現場で完全に満たすことは極めて難しく、事実上の免責ルートは閉ざされている」との見解が定着しています。