犬の口腔内メラノーマは、世界保健機関(WHO)の基準に基づき、原発腫瘍の最大径、局所リンパ節転移の有無、遠隔転移の有無によって第I期から第IV期までの4段階にステージ分類されます。この疾患の恐ろしさは、病変のサイズがわずか数ミリ増大するだけで、予測される生存期間(余命中央値:MST)が劇的に短縮してしまう点にあります。
腫瘍の直径が2cm未満で転移が認められない「ステージI」において外科的拡大切除が成功した場合、余命中央値は12〜18ヶ月以上とされ、中には2年以上の長期生存を達成する個体も存在します。しかし、腫瘍が2cmを超えて4cm未満の「ステージII」になると余命は約6〜8ヶ月、4cm以上あるいは首のリンパ節転移が認められる「ステージIII」では約3〜5ヶ月へと急落します。さらに肺や腹腔内臓器への遠隔転移が確認された「ステージIV」では、余命中央値は1〜2ヶ月前後にまで追い詰められるのが冷酷な統計的現実です。
メラノーマの転移先として最も警戒すべき臓器は「肺」です。犬のメラノーマ肺転移の症状は、初期にはほとんど自覚症状がなく、飼い主が気づいたときには肺全体に無数の腫瘍結節(ミリタリーパターン)が散布されている事例が少なくありません。進行に伴い、運動を嫌がる、乾いた短い咳(特に夜間や安静時)が出る、安静時でも呼吸数が1分間に30回を超えて浅く速いパンティングを繰り返す、舌の色が紫色に変色するチアノーゼといった重篤な呼吸不全が発現します。肺転移が成立した段階での積極的な根治療法は極めて困難となり、苦痛を最小限に抑える緩和医療へのシフトを迫られることになります。