なぜ野口英世は黄熱病の病因を見誤ったのか。その答えは、当時の感染症医学・微生物学研究が直面していた光学顕微鏡の解像度の限界にある。黄熱病の正体は細菌ではなく、光学顕微鏡では観察不可能なほど極小の黄熱ウイルスだった。
当時、ウイルスという概念そのものが黎明期にあり、病原体を濾過するフィルターを通過する「謎の病因」として議論されていたに過ぎない。野口が用いていた最先端の光学顕微鏡や培養技術は、細菌に対しては極めて有効だったが、ウイルスを直接捉える電子顕微鏡の実用化は彼の死後を待たねばならなかった。さらに、中南米で彼が診た患者の中に黄熱病と酷似した症状を示す重症のワイル病(レプトスピラ感染症)が混在していた不運が、彼を誤認の迷路へと誘い込んだのである。