1980年代、日本の言論空間を揺るがした一大ムーブメントがあった。椎名誠らとともに巻き起こした「昭和軽薄体」の波である。文語的な重々しさをあえて捨て去り、話し言葉のスピード感と土俗的なユーモアを前面に押し出した文体は、旧来の文壇からは眉をひそめられたものの、圧倒的な読者の支持を獲得した。
だが、その「軽さ」は単なる浅薄さではなかった。権威主義や欺瞞に対する強烈なパロディであり、日常の裂け目に潜む哀愁をすくい取るための高度な文体実験だったのだ。仲間たちと酒を酌み交わし、旅に出て、路地裏の飯屋で語り合う。泥臭い生活実感に裏打ちされた言葉だからこそ、消費し尽くされることなく、今も瑞々しい生命力を放っている。